ご挨拶~音楽発表会を終えて

 

今年も発表会ラッシュがようやく終わり、ホッと一息ついたところです。

さて、音楽の発表会に長く関わっていると、それなりの思いや考えが生まれてくるものです。

きょうは、子ども自身が何を体験し獲得するのか、この視点に立って私なりの意見をまとめてみました。

 

まずは、学習者にとって人前で自分の演奏を聴いてもらえることは大切です。

こんなに弾けるようになりましたと日頃の練習の成果を披露できるからです。

しかし音楽と人の可能性を考えたとき、それだけでは何か物足りない気がするのです。

普段は”見られる”ことのないフツーの子が、ちょっとおめかしをして人々に”見られる”のが発表会ですから、このハラハラドキドキ、スリリングなパフォーマンスは日常生活では経験できない貴重な一瞬だと思います。

「わたしがここにいるのはなぜ?」「ぼくはなにをするの?」

ちょっとばかり大げさにいえば、パフォーマンスというエッセンスを加えることで、子どもたち自身が非日常的な空間をプロデュースできる唯一の場ともいえるでしょう。

それならば、そつなく演じることにウエイトをおくこと自体がナンセンスだと思うのですが、皆さんはどのように思われますか。

 

私はいつもおまじないのように「○○ちゃんしか弾けない曲を聴かせるんだよ。○○ちゃんワールドだよ」と言い、ポンと背中をたたき憧れの舞台へと送り出します。

だから一旦送り出した後は、途中で曲を忘れちゃった、椅子の高さ調整に時間がかかってしまったり低かったり高かったりと色々あっても、子ども自らSOSを発しない限り、私のほうから舞台に出てお手伝いはしないようにしています。

発表会はひとりで出来るようになってから出演すれば済むことですし(講師仲間からの反論も覚悟の上ですが~苦笑)、楽譜を持っていったり一人では無理だから一緒に連弾で弾くこと(レッスンでは行ないます)、生徒と先生と一緒に合奏することも私の場合は出来るだけ避けたい考えです。

私は子どもが主役のその舞台に大人がチョロチョロ顔を出すことは何か違うなと感じているからです。

自分ワールドを模索している子どもにとって、私の助けはあんまり助けにならないし、私の助けが有害なこともあるからです。

それに、せっかくのおまじない(!?)が何処かにとんでいってしまったら大変です。

子どもたちの演奏を聴いている人たちは、このおまじないから絶対何かを感じてくれるはずで、それが音楽の力だし音楽をやる意味だと思うからです。

そしてこのことは、在学中に音楽活動をLIVE演奏からスタートさせた私独自の少々過激な考え方かもしれませんが、今も昔もまったく変わることのない指導上のスタンスです。

 

さて今度は、晴れの舞台でハラハラドキドキ、スリリングなパフォーマンスができるための秘訣についてです。

まずは発表会曲に取りかかるタイミングですが、これがもっとも頭を悩ますところです。

早くから始めた方がより完成度の高いものになることは誰が考えてもわかることですが、なぜでしょう、そう簡単ではないからです。(*)

確かに時間をかければ弾き間違いは無くなり、そつなく仕上がるのですが、はっきり言ってこれでは面白くないのです。

この傾向は特に子供において顕著で、フレッシュさに欠けるというか、子供に本来備わっているハラハラドキドキが感じられません

このような理由から、出来立てホヤホヤのまだ湯気が出ている状態で本番に臨めるようにと、当日ギリギリに焦点を合わせ取り組むようにしています。

そのためには子どもの進度状況に合わせ曲によっては何度か楽譜をアレンジし直したり、練習嫌いな子では大幅な変更を余儀なくされる場合もあります。

 

次に発表会を終えてからのことですが 目標としていたものが自分の中で大きいほど成し遂げた後の空虚感も大きくなる場合があります。

個人差もありますが何も手につかない状態が長く続くこともあります。

じつは、発表会が終わっても同じ曲を引き続きレッスンする理由のひとつがここにあります。

楽奏においては人前で弾くことはレベル向上させる絶好の機会ですが、やりっ放しにしないことも重要です。

弾きっ放しで振り返りができていないと、全体の結果からしか判断できないため、反省や改善の余地があってもわからないままになってしまいます。

これでは発表会という、せっかくの機会を生かせずもったいないですよね。

そこで嫌がる子には強制しないのですが、今の時期になっても発表会で弾いた曲のレッスンをしている子もいます。

ただ、けっこう楽しんでやっている子達もいて、ここのところもっとこうした方がいいんじゃないかと問題提起をする子、発表会では間に合わなかったペダルを踏んでみたい等など、子供たちの欲求に私の方が振り回される始末ですが(笑)ここまでくればもうしめたものです。

音楽の楽しみが、そのとき限りの”楽しい”から持続可能な”楽しさ”へと変貌し始めたということです。

あと、当日の演奏動画を持っている子には再度視聴してもらい、「私が審査員になったら」というタイトルで自己評価をA4レポート用紙にびっしり書く課題も出しています。

この場合の評価については、反省点だけでなく、良かったところもいっぱい書くようにと伝えます。

そうすると普段は字を書くのが面倒そうな子どもでも一生懸命書いてくれます。

私が思いもよらなかった感想もあったりで、成長していく子供たちの姿に触れられる喜びの瞬間ともいえます。

 

最後に、今年の発表会も終了後にご挨拶に来られた方々とお話ししたときのご様子や表情から、満足していただけたのではと感じました。

発表会当日にお渡ししたアンケート用紙には、子どもたちや保護者の方々に感想も書いていただきました。

「きんちょうしたけど楽しかった」「おわってせきにもどってきたときに、ピアノをひいてたかんかくがなくてふしぎでした」「こんどはもっとむずかしい曲をひけるようになりたいのじゃ」「目標に向かって励む姿は美しく、家族全員で協力できて良かったです」「今のまま、自主性を重んじ指導していただけたらと存じます」等々、多くの素敵なご意見ありがとうございました。

そして子どもたちには、レッスンを通して自分とは違う価値観や考え方も学びながら、いつもニコニコ顔の子、注意を受けると涙ぐむ子、練習する子もしない子も、自分の意志を持ち自ら考え判断する力を身につけてほしいと願っています。

子どもたちが良い方向に成長していくためには、保護者の皆様のご理解とご協力も必要です。

これからも子どもたちの未来につながる学びと遊びを模索し実行していきたいと思いますので、どうぞ宜しくお願いします。

 

*周到な準備期間を設けて練習に励み最高の状態で本番に臨むことがベストなのはもちろんです。

 

2017102日  

MEボックス 松永